どーも皆さんGuten Tag!!
シマムラストリングス秋葉原:マネージャーの糸山です。
先日に引き続き、今年はベートーヴェン生誕250周年のメモリアルイヤーということで、弦楽器買付としては初めて「音楽の都」ウィーンを訪れています。
本日は、ウィーンゆかりの音楽家たちが贔屓にしている、これまた凄腕の弓職人をご紹介したいと思います。
ここウィーンで弓を専門に製作するBogenmacher(ボーゲンマッヒャー=弓職人)、Thomas M.Gerbeth(トーマス・M・ゲルベス)氏をご紹介致します。
ゲルベス氏は1968年生まれ。
見習い時代から「ジャーニーマン」と呼ばれる所謂"渡り職人"にかけての下積み時代は、Wolfgang Dürrschmidt(ヴォルフガング・ダルシュミット)、R. Herbert Leicht(R.ヘルベルト・ライヒト)、Günter A. Paulus(ギュンター・A・パウルス)、Steffen Kuhnla(シュテファン・クンラ)、そしてRichard Grünke(リヒャルト・グリュンケ)など、ドイツ各地の工房で腕を磨きました。
1992年にはイギリス・マンチェスターのコンペティションで金メダルを受賞。1997年にはドイツ・ミッテンヴァルドのコンペティションでも金メダルを受賞しています。
1996年には当時パリに居た現代巨匠:Stéphane Thomachot(ステファン・トマショー)の工房でスキルを磨き、翌年1997年にここウィーンで独立を果たしました。
こちらの工房は何名の職人が働いているのか?・・・と聞くと、工房メンバーはゲルベス親方と製作アシスタントが1名。
陽がたっぷり差し込むアトリエの窓際には、ワークベンチが4台。
・・・ということは月に3、4本のペースですので、1人で製作している弓職人、例えばEmmanuel Carlier(エマニュエル・カリエール)並みに製作本数が少ないことになります。
『いやいや。月3本って。冗談はヨシコチャン。職人が3人もいるんだから、本当はもっと作れるでしょ?』
と、勘の鋭いマイスター茂木は即疑いの目を向けたのですが・・・。
ゲルベス氏の工房では、演奏家の好みや使い勝手に合わせて、1本1本絶妙な材料チョイスと仕様変更を加えて製作しているのです。
特筆すべきは、こちらではF.X.トルテやD.ペカットなどの貴重なオールド弓を、外観・重量・反り・バランス・重心や木材のコシに至るまで、超こだわって弓のコピー製作を行う技術を持っていることです。
『僕の持っているトルテの弓と弾き心地が変わらない弓を、寸分の狂いもなく、完璧に作って欲しい。』
・・・という、むちゃくちゃ難解な依頼に常時対応している訳なのですが、何故そのような「コピー弓」には需要があるのでしょうか?
弓を使うのがもったいない。・・・から~、です。
(・・・って言い切ってしまいましたが、理由はお客様によって様々あると思います。)
弓を使うのが勿体ない理由。ここからは筆者の想像(独断と偏見)で書きますが・・・、例えばF.X.トルテの場合。プロの演奏家が本番で使うようなコンディションの良い弓ですと、その価値は数千万円。最も高値が付いたのはフランスのVichyオークションで、576,600ユーロ(≒6,935万円)で販売される名弓です。
www.thestrad.com
1年の半分以上は演奏旅行に出ている・・・という演奏家の場合、数千万円もするF.X.トルテを常に持ち歩くのって、何だか怖いですよね?
盗難のリスクや、税関でいちいち止められて説明するのも大変です。
さらには、弓を折ってしまった・・・という移動中の不運な事故も、実は少なくはないのです。(スターンがF.X.トルテの弓をプラプラしながら歩いていたら折れちゃった・・・という逸話を聞いたことがあります。。)
今度は演奏家の練習時間を考えてみましょう。
下手したら平気で「半日以上練習する」・・・なんていうプロの方もいらっしゃいます。そのような状況下で、毎日毎時毎分毎秒、F.X.トルテで練習するでしょうか?
ベートーヴェンの交響曲全曲連続演奏会では、オーケストラの皆さんは弓はどうマネージメントされているのでしょうか?
(ぜひご教示いただけますと幸いですー!)
mainichi.jp
ワーグナー作曲のオペラ「ニーベルングの指環」は、仮にブッ通しで演奏すると15時間もかかるのですが、これをF.X.トルテで弾くのでしょうか・・・?(余裕で弾くよ・・・って方がもしいらっしゃいましたら、大変申し訳ございません。あくまで私の偏見です。。)
弓は高価なものになればなるほど、
TPOによって使い分けるのが一般的だと思います。
本番とレッスン。コンサートホールと練習室。オーケストラとカルテット。30分のミニコンサートとワーグナーのオペラ。室内と野外。ゲネプロとこそ練。マチネとソワレ。ウィーンと日本。
プロでもアマチュアでも、TPOは果てしなく色々あります。色々あるからこそ、こんなニーズが生まれます。
いつでも(Time)、どこでも(Place)、どんな状況であっても(Occation)、常に最高の演奏がしたい。=同じ弓で弾きたい。
ちょっと強引に「同じ弓で弾きたい。」に繋げましたが、細かい話は止めましょう(笑)
その演奏家が今現在使っている「この弓が最高。」だと仰るのであれば、弾き方が変わらないように、同じ弾き心地の弓を求めるニーズが存在します。そして、それに応えているのがゲルベス氏です。
では、どうやって再現するのか?2つだけ特別に教えて頂きました。
弓自体が自由曲線が多い形状ですので、図面で正確におこすのは至難の業です。
ゲルベスさんの工房では三次元計測機を使用し、寸法・形状を精密に測定し、立体図面を360度グラフィカルに確認することが可能です。
また、実際に製作した弓とを比較し、細かい誤差を随時チェックすることも出来ますので、時間をかけて正確なレプリカを作り上げることが可能になります。
これはストップウォッチではなく、日本のメーカー:ミツトヨさんの「デジマチックインジケータ」という精密機器。
フェルナンブーコの厚みを1/100mm単位で測定します。
目標値となるデータは、予め演奏家から預かったオリジナルの弓から採寸済みですので、コンピューターが指し示す目標値に向かって手作業で削ってゆきます。
理由は、
『俺たちの弓は新品でも馬毛に松脂が既にノッているからね。誰かが弾いていたUSEDじゃないから安心してね。いくら設備投資をしても、やはり最後は「人間の感覚」を一番大事にしているんだ。』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団・元第1コンサートマスターのWerner Hink(ウェルナー・ヒンク)。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団・現コンサートマスターのFlorian Zwiauer(フロリアン・ツヴィアウアー)。
ウィーン育ちのヴァイオリニスト:Julian Rachlin(ジュリアン・ラクリン)。
ヴァイオリニスト:Julia Fischer(ユリア・フィッシャー)は、ハイフェッツが愛用したF.X.トルテのコピー製作を依頼しています。
などなど、ここに書ききれないほど大勢いらっしゃいます。本当はお一人お一人丁寧にご紹介するべきところなのですが、ブログ原稿の提出期限も差し迫っていまして・・・、また後日改めて別紙にてご紹介させて頂きたいと思います。何卒ご了承ください(泣)
また、ご自身のオールドボウをゲルベス氏にコピー製作してもらいたい・・・というご相談は、是非当社まで♫
ウィーンの夜は、ベートーヴェンが第九を作曲したというホイリゲ(造り酒屋)で食事をしました。
すぐ近くにベートーヴェン博物館(ハイリゲンシュタット遺書の家)もあったのですが閉館時間までに仕事が間に合わず、残念でした。
ウィーンの街はたった1日。非常に名残惜しいですが、翌朝早朝から電車移動。次の行き先はプラハです!
Tschüss!!
今回買い付けた弦楽器は、弦楽器フェスタでお披露目します
今回マイスター茂木が買い付けを行った弦楽器は、5月〜7月各地(グランフロント大阪・横浜みなとみらい・名古屋みなとアクルス・松本パルコ・南船橋・イオンレイクタウン・仙台泉・札幌クラシック)の島村楽器で開催される、島村楽器弦楽器フェスタにて展示・お試しいただくことが出来ます。
順次情報を公開致しますので、弦楽器フェスタページもあわせてご覧ください。