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2020年春 弦楽器買い付けレポートその5「ウィーン編 Part2」

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どーも皆さんGuten Tag!!
シマムラストリングス秋葉原:マネージャーの糸山です。
先日に引き続き、今年はベートーヴェン生誕250周年のメモリアルイヤーということで、楽器買付としては初めて「音楽の都」ウィーンを訪れています。

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世界三大ピアノの1つ、ベーゼンドルファーのショールームも楽友協会に併設。このコンサートホールとベーゼンのピアノは歴史的にも深い関りがあります。

本日は、ウィーンゆかりの音楽家たちが贔屓にしている、これまた凄腕の弓職人をご紹介したいと思います。

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ウィーン中心街から車で20分弱、「Meidling(マイドリンク)」という街を訪れました。

ここウィーンで弓を専門に製作するBogenmacher(ボーゲンマッヒャー=弓職人)、Thomas M.Gerbeth(トーマス・M・ゲルベス)氏をご紹介致します。

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左からマイスター茂木、ゲルベス氏、奥様のアンケさん、グランフロント大阪店の男前店長フルニシ。親方がTシャツ姿なのは、今日は工房の定休日だったからです。無理を言って我々の訪問アポイントを受けて下さいました。Danke!!

ゲルベス氏は1968年生まれ。
見習い時代から「ジャーニーマン」と呼ばれる所謂"渡り職人"にかけての下積み時代は、Wolfgang Dürrschmidt(ヴォルフガング・ダルシュミット)、R. Herbert Leicht(R.ヘルベルト・ライヒト)、Günter A. Paulus(ギュンター・A・パウルス)、Steffen Kuhnla(シュテファン・クンラ)、そしてRichard Grünke(リヒャルト・グリュンケ)など、ドイツ各地の工房で腕を磨きました。

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ゲルベス氏はドイツ仕込みのドイツ語なので、トライリンガル茂木もスラスラとお話していました。

1992年にはイギリス・マンチェスターのコンペティションで金メダルを受賞。1997年にはドイツ・ミッテンヴァルドのコンペティションでも金メダルを受賞しています。

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弓製作のコンペティションでは多数の受賞歴があります。

1996年には当時パリに居た現代巨匠:Stéphane Thomachot(ステファン・トマショー)の工房でスキルを磨き、翌年1997年にここウィーンで独立を果たしました。

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清掃が行き届いた美しいアトリエ。木くずは綺麗に掃除されていました。にもかかわらず、センターに無造作に置かれたカバンの持ち主は誰でしょう?過去のブログを読み返して、ぜひ犯人を見つけて下さい。

こちらの工房は何名の職人が働いているのか?・・・と聞くと、工房メンバーはゲルベス親方と製作アシスタントが1名。

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優秀なアシスタントさんも今日はせっかくの定休日だったのに、我々のせいで出社を命じられたのかと思うと心が痛みます・・・。ちゃんと代休もらってね。
そして、毛替えだけを専門で行う奥様アンケさんと3人で運営されています。
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奥さんのアンケさんは毛替えだけを担当する『毛替えのスペシャリスト』。ご両親はヴァイオリニストで、アンケさんご自身も幼いころからヴァイオリンの英才教育を受けていました。

陽がたっぷり差し込むアトリエの窓際には、ワークベンチが4台。

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そのうち、ワークベンチ1台はラッピング(巻き線)専用です。いーとーまきまき♪
ここでは少数精鋭のメンバーで、年間約40本の弓を製作しているそうです。
・・・ということは月に3、4本のペースですので、1人で製作している弓職人、例えばEmmanuel Carlier(エマニュエル・カリエール)並みに製作本数が少ないことになります。

『いやいや。月3本って。冗談はヨシコチャン。職人が3人もいるんだから、本当はもっと作れるでしょ?』
と、勘の鋭いマイスター茂木は即疑いの目を向けたのですが・・・。
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壁にはThomas M. Gerbeth氏がドイツ国家資格「Meister」であることの証明書が飾られています。(マイスター茂木も持っていますよ♪ 「自称マイスター」じゃないですよ♪)手前は、弓に焼印を入れる道具と金属加工をするフライステーブル。
製作本数が極端に少ない理由、それは一言でいうとカスタマイズです。
ゲルベス氏の工房では、演奏家の好みや使い勝手に合わせて、1本1本絶妙な材料チョイスと仕様変更を加えて製作しているのです。
特筆すべきは、こちらではF.X.トルテやD.ペカットなどの貴重なオールド弓を、外観・重量・反り・バランス・重心や木材のコシに至るまで、超こだわって弓のコピー製作を行う技術を持っていることです。
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粗削りされた弓のスティックは、それぞれのフェルナンブーコの特性を科学的に調べて記録しており、その特性によって予め色分けがされています。
要するに、、、
『僕の持っているトルテの弓と弾き心地が変わらない弓を、寸分の狂いもなく完璧に作って欲しい。』
・・・という、むちゃくちゃ難解な依頼に常時対応している訳なのですが、何故そのような「コピー弓」には需要があるのでしょうか?
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こだわりの強い弓職人の中にも、細かい話になると結局最後は感覚的な説明になることがありますが、ゲルベス氏は論理派。分かりづらい弓作りの良し悪しを「見える化」しています。
これもチコちゃん風に簡単に説明しちゃうと、
弓を使うのがもったいない。・・・から~、です。
(・・・って言い切ってしまいましたが、理由はお客様によって様々あると思います。)
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気になるヘッド型を発見。あのレオニダス・カヴァコスも愛用者の一人。

弓を使うのが勿体ない理由。ここからは筆者の想像(独断と偏見)で書きますが・・・、例えばF.X.トルテの場合。プロの演奏家が本番で使うようなコンディションの良い弓ですと、その価値は数千万円。最も高値が付いたのはフランスのVichyオークションで、576,600ユーロ(≒6,935万円)で販売される名弓です。
www.thestrad.com
1年の半分以上は演奏旅行に出ている・・・という演奏家の場合、数千万円もするF.X.トルテを常に持ち歩くのって、何だか怖いですよね?
盗難のリスクや、税関でいちいち止められて説明するのも大変です。
さらには、弓を折ってしまった・・・という移動中の不運な事故も、実は少なくはないのです。(スターンがF.X.トルテの弓をプラプラしながら歩いていたら折れちゃった・・・という逸話を聞いたことがあります。。)

今度は演奏家の練習時間を考えてみましょう。
下手したら平気で「半日以上練習する」・・・なんていうプロの方もいらっしゃいます。そのような状況下で、毎日毎時毎分毎秒、F.X.トルテで練習するでしょうか?
ベートーヴェンの交響曲全曲連続演奏会では、オーケストラの皆さんは弓はどうマネージメントされているのでしょうか?
(ぜひご教示いただけますと幸いですー!)
mainichi.jp
ワーグナー作曲のオペラ「ニーベルングの指環」は、仮にブッ通しで演奏すると15時間もかかるのですが、これをF.X.トルテで弾くのでしょうか・・・?(余裕で弾くよ・・・って方がもしいらっしゃいましたら、大変申し訳ございません。あくまで私の偏見です。。)

弓は高価なものになればなるほど、
TPOによって使い分けるのが一般的だと思います。
本番とレッスン。コンサートホールと練習室。オーケストラとカルテット。30分のミニコンサートとワーグナーのオペラ。室内と野外。ゲネプロとこそ練。マチネとソワレ。ウィーンと日本。
プロでもアマチュアでも、TPOは果てしなく色々あります。色々あるからこそ、こんなニーズが生まれます。
いつでも(Time)、どこでも(Place)、どんな状況であっても(Occation)、常に最高の演奏がしたい。=同じ弓で弾きたい。
ちょっと強引に「同じ弓で弾きたい。」に繋げましたが、細かい話は止めましょう(笑)
その演奏家が今現在使っている「この弓が最高。」だと仰るのであれば、弾き方が変わらないように、同じ弾き心地の弓を求めるニーズが存在します。そして、それに応えているのがゲルベス氏です。
では、どうやって再現するのか?2つだけ特別に教えて頂きました。
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マイスター茂木も『個人メーカーの弓作りでここまで徹底的にやっている職人は初めて。』との事。最先端技術に食い入るように見入っていました。
まずは3D-CADの導入。
弓自体が自由曲線が多い形状ですので、図面で正確におこすのは至難の業です。
ゲルベスさんの工房では三次元計測機を使用し、寸法・形状を精密に測定し、立体図面を360度グラフィカルに確認することが可能です。
また、実際に製作した弓とを比較し、細かい誤差を随時チェックすることも出来ますので、時間をかけて正確なレプリカを作り上げることが可能になります。
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壁にはストップウォッチのような物が10個。
2つめは、ここの壁にある装置で弓を正確に採寸しながら削ってゆきます。
これはストップウォッチではなく、日本のメーカー:ミツトヨさんの「デジマチックインジケータ」という精密機器。
フェルナンブーコの厚みを1/100mm単位で測定します。
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ここに弓をセッティングし、スティックに測定子を落とします。
すると、パソコンの画面に測定データが秒で算出されます。
目標値となるデータは、予め演奏家から預かったオリジナルの弓から採寸済みですので、コンピューターが指し示す目標値に向かって手作業で削ってゆきます。
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目標値まであとどれぐらい足りないのか、データを見て瞬時に判断することが可能です。
弓が出来上がっても、最後は製作者自身&奥さんのアンケさんが実際に試し弾きを重ねて、微調整をかなり加えてから完成させるそうです。
理由は、
『俺たちの弓は新品でも馬毛に松脂が既にノッているからね。誰かが弾いていたUSEDじゃないから安心してね。いくら設備投資をしても、やはり最後は「人間の感覚」を一番大事にしているんだ。』
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スティックのデータ採寸は製作過程だけでなく、完成後も「毛を張っていない状態」と「毛を張った演奏時の状態」まで比較測定を行い、元となったオリジナル弓のデータと忠実に重なり合うまで、繰り返し行われる。途方もなく果てしない作業。
ゲルベス氏のご紹介の締めくくりに、ご愛用されている錚々たる面々をご紹介させて頂きたいと思います。(以下、敬称略で大変恐縮です。)

ウィーン・フィルハーモニー管楽団・元第1コンサートマスターのWerner Hink(ウェルナー・ヒンク)。


ウィーン・フィルハーモニー管楽団・現コンサートマスターのFlorian Zwiauer(フロリアン・ツヴィアウアー)。


ウィーン育ちのヴァイオリニスト:Julian Rachlin(ジュリアン・ラクリン)。


ヴァイオリニスト:Julia Fischer(ユリア・フィッシャー)は、ハイフェッツが愛用したF.X.トルテのコピー製作を依頼しています。


などなど、ここに書ききれないほど大勢いらっしゃいます。本当はお一人お一人丁寧にご紹介するべきところなのですが、ブログ原稿の提出期限も差し迫っていまして・・・、また後日改めて別紙にてご紹介させて頂きたいと思います。何卒ご了承ください(泣)

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顧客には錚々たる面々が名を連ねます。
肝心の買い付けはと申しますと、『オーダーしてくれないと手元に売れる弓はないよ!』という事でしたので、金黒檀のヴァイオリン弓、金黒檀のチェロ弓の2本をカスタムオーダーして参りました。

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こちらも著名なヴァイオリニスト(ビッグネームです!!!!)からの依頼を受け製作した、金黒檀のヴァイオリン弓。
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名弓:ドミニク・ペカットのフルコピー・モデルです。弾き心地、手元のフィット感、極上物でした。余談ですが、フルコピーと言ってもバイオリンやチェロ本体のように「アンティーク・フィニッシュ」ではありません。
入荷はまた無理を言って5月頃の予定です。完成を楽しみに、お待ちくださいませ♪
また、ご自身のオールドボウをゲルベス氏にコピー製作してもらいたい・・・というご相談は、是非当社まで♫
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貴重な情報を余すことなくシェアして頂いたゲルベス氏に感謝!また訪れたい名工です!


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ウィーンの夜は、ベートーヴェンが第九を作曲したというホイリゲ(造り酒屋)で食事をしました。

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すぐ近くにベートーヴェン博物館(ハイリゲンシュタット遺書の家)もあったのですが閉館時間までに仕事が間に合わず、残念でした。
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自家製のスパークリングワインで乾杯。ベートーヴェンという理由をこじつけて、有難く頂きます(笑)
www.tripadvisor.jp
ウィーンの街はたった1日。非常に名残惜しいですが、翌朝早朝から電車移動。次の行き先はプラハです!

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ヨーロッパ各地で見かけた電動キックボード「Lime」。日本でもいくつかの都市で試験的に運用されはじめているみたいです!
それでは今日はこの辺で。
Tschüss!!

今回買い付けた楽器は、楽器フェスタでお披露目します

今回マイスター茂木が買い付けを行った楽器は、5月〜7月各地(グランフロント大阪・横浜みなとみらい・名古屋みなとアクルス・松本パルコ・南船橋・イオンレイクタウン・仙台泉・札幌クラシック)の島村楽器で開催される、島村楽器楽器フェスタにて展示・お試しいただくことが出来ます。
順次情報を公開致しますので、楽器フェスタページもあわせてご覧ください。


2020年春 楽器買い付けレポート


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